建築とは、人間が生活・活動するための空間を内部に持つ構造物を意味します。
私たちが暮らしている住宅には、昔から継承されている建築様式や、思想が詰め込まれていますが、それらを考える機会はあまり多くはありません。
建築様式は、ある一定の時代を機に近代建築と現代建築に区別されており、その定義や考え方は異なっていることをご存じですか?
そこで今回は、近代建築から現代建築へ移行するなかで、設計思想がどのように変遷していったかを詳しく解説します。
ここでは、近代建築の設計思想について解説します。
まずは近代建築と機能性について知ったうえで、昨今の新しい建築様式について考えていくとよいでしょう。
<近代建築とは?近代建築の定義>
近代建築はモダニズム建築ともいい、1800年代から第二次世界大戦頃までの建築様式を意味します。
古来より受け継がれてきたギリシャ・ローマの建築様式とは異なり、合理的な造形理念に基づく設計がなされていることが特徴です。
19世紀になると、工業の発達により、駅、向上、鉄橋といった新しい建築物が生まれ、これに伴い、鉄骨、ガラス、鉄筋コンクリートといった新しい構造が生まれました。
そして、近代建築を語る際に忘れてはならないのは、近代建築の三大巨匠とされる3人の建築家です。
■フランク・ロイド・ライト(アメリカ)
■ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(ドイツ)
■ル・コルビュジエ(スイス/フランス)
コルビュジエは、以下の近代建築の五原則(新しい建築の5つの要点)を提唱しています。
1.ピロティ:地面から建築を解放して、車・人・植物の空間を作る
2.屋上庭園:斜めの屋根を平らにして屋上と空の空間を解放する
3.自由な設計図:構造壁から平面を解放して自由な部屋を作る
4.水平連続窓:障害なく周囲の眺望が得られる
5.自由なファサード:正面の壁を自由にデザインできるようにする
コルビュジエの建築思想がすべて詰め込まれたのが、パリ郊外にあるサヴォア邸です。
サヴォア邸を含む、コルビュジエの建築群は世界遺産に登録されており、近代建築の定義を紹介するうえで外せない要素といえます。
<建築における機能主義について>
近代建築とともに語られるのが機能主義で、19世紀末から20世紀初頭、ルイス・ヘンリー・サリバン、オットー・ワーグナーによって提唱されました。
建築における機能主義とは、建物の機能を満足させることを優先しなければならない考えのことです。
・建物の合目的性
・装飾的付属物の排除
・構造、材料の力学的合理性と経済性
これらを元に、近代工業の発達と生活の合理化が反映されています。
<日本国内における近代建築の代表例>
上記で紹介したのは、アメリカやヨーロッパの近代建築家ですが、日本国内でも近代建築に基づいた建築物は多数存在しています。
重要文化財、世界文化遺産として登録されている韮山反射炉は1857年、現在の静岡県伊豆の国市に作られました。
他にも、国宝である大浦天主堂、世界文化遺産として登録された富岡製糸場、日本銀行本店、東京駅、国会議事堂などがあります。
時代の流れに沿って建築様式は変化しており、求められる機能性なども移り行くといえるでしょう。
では、近代建築から現代建築へ移行するにあたって、どのような部分が変化していったのでしょうか?
<現代建築とは?>
1800年代から第二次世界大戦頃の建築様式を近代建築と呼ぶ一方で、第二次世界大戦以降に建てられた建築物を現代建築と呼び、区別しています。
近代建築と比較する際に利用する言葉として利用されていることが多く、建築様式を表す際に一般的に使用される言葉です。
近代建築やそれ以前の建築様式と比較して、現代的な設計やシステムを取り入れた建築方式が取り入れられており、全体的に華美な装飾は控えめであるといえるでしょう。
<近代建築と現代建築で異なる部分>
代建築と現代建築で違う部分については、確固たる定義といったものは存在しないため、建築家や専門家による考察が一般的な考えとなるでしょう。
日本の建築家、西沢大良(にしざわ
たいら)氏は、現代建築について、2005年に開催された東西アスファルト事業協同組合のなかで、以下のような考えを述べています。
僕の考える「現代建築」ないし「現代」とは、屋外や屋内に現れるモノの種類がすごく増えたという指標があります。
現代は、二十世紀初頭や二十世紀半ばと比べても、決定的にモノの種類が増えています。
100年くらい前の世界を写したフィルムが残っていますが、それを見れば一目瞭然です。
西沢氏がモノの種類の違いこそが、現代建築と近代建築の違いといい、近代建築の家屋内部には、家電や雑誌、文庫本、単行本などがないことを説明しました。
現代および現代建築は、自動車、バイクといった乗り物、服のバリエーション、家具、生活雑貨、髪型といった、私たちの生活に欠かせない道具の種類・数が増えており、これが現代であり、空間の特徴としています。
<現代建築へ移行するにあたって変わらないこと>
上記で述べたように、モノの種類・数が増えたとしても、建築が果たしてきた意味は変わらないといえます。
耐久性などに優れた素材はもちろん、近代建築で使用されている鉄筋コンクリートやガラスといった、建物を構成する材質部分も利用されています。
また、装飾の有無に関係なく、建物の外観に美しさが求められていることは変わらないはずです。
定義や概念といった部分になると、建築家の考え方によっては異なるかもしれませんが、上記のような部分では、近代建築やそれ以前の様式が継承されているといえるでしょう。
機能性とデザイン、どちらを重視すべきか、住宅で生活する人が決めるべきともいえますが、公共物においては、難しい問題といえるでしょう。
建築家の思想によって異なるため、ここではあらゆる方向から、設計思想について考えてみます。
<機能に固執した近代建築思想からの脱却>
日本国内において、さまざまな建築物を手掛けた伊藤豊雄(いとう とよお)氏は、webサイト「アーキテクトエージェンシー」で、以下のように話しています。
「機能は、むしろ曖昧にしていったほうが楽しく自由に過ごすことができると考えています。
もうひとつ、近代建築は自然との関係を切り捨ててきました。その弊害は大きい。もう近代主義の思想は、徹底的に変えないといけない時期にきていると思うのです。」
(引用:機能ばかりに固執してきた近代建築の思想は、根本から変えなきゃいけない時代にきている)
自然環境や自由、表現といったなかで生まれてくる機能性を重視すべきであり、近代建築の発想は今後変えられていくのかもしれません。
伊藤氏は、近代建築のセオリーから解き放たれた「21世紀の建築原理」と作り上げたいとし、今後新しい建築様式が生まれていくことが期待できます。
<機能面が満足されれば建築的が自然・必然的についてくる?>
アメリカの建築家であるルイス・ヘンリー・サリヴァン(1856~1924)の有名な言葉のなかに、「形態は機能に従う(Form Follows Function)」といったものがあります。
この言葉が意味するのは、「デザインにおける美しさは、機能に従属するものである」といった考え方です。
言葉の意図として、建築物における機能が満足していれば、建築的な美はついてくるといった意味であり、機能性を重視すべきと捉えられるでしょう。
<機能性・デザイン性を両立できればベスト>
当然ながら、機能性とデザイン性どちらも満足な建築であればベストです。
設備などが現在の暮らし方にマッチしていながらも、デザイン性の高いキッチンやリビングであれば、それに越したことはないでしょう。
建築家の考え方や時代の流れ、求められている物事によって、機能性を重視すべきか、デザイン性を重視すべきであるかといった点はことなるため、絶対的な正解はないのかもしれません。
この記事では、建築物における設計思想について紹介をしましたが、原理や定義の話となり、少し複雑な部分があったかもしれません。
建築物は時代の流れとともに求められることや、必要な機能が変化していくともいえるため、答えを導きだせないこともあるでしょう。