相続トラブルの多くは不動産が関係してきます。
不動産は現預金と違ってすぐに分けたり譲渡したりすることが難しく、また所有者の高齢化が進むことにより、様々なトラブルが発生します。
賃貸物件をご所有の大家さんの中には、相続対策の必要性を感じているものの、なかなか実際に対策が出来てなく、お悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では将来家族で揉めることなく“円満相続”にするために「相続の現状」と「具体的な相続対策」について分かりやすく解説します。
まずは、相続の現状について見ていきます。
◆そもそも相続とは?
相続とは、人(被相続人)が亡くなった場合に、その人が持っていた財産上の権利義務を一定の関係にある人(相続人)に包括的に承継することです。(民法882条、896条)
被相続人から相続人に承継される財産のことを「相続財産」と言い、現金、預貯金、有価証券、自動車、土地・建物などの不動産といったプラスの財産だけでなく、借入金や保証債務などのマイナスの財産も相続します。
相続分(=相続をすることができる割合)は、遺言がある場合はその遺言に従って相続します。
遺言がない場合は、民法で定められた法定相続分に沿って相続します。
ただし、法定相続分はあくまで目安なので、相続人全員で遺産分割協議を行い、合意できればそれぞれの事情に応じて分けることが可能です。
◆相続財産の多くを占める不動産
国税庁の調査によると、相続財産の中で不動産が占める割合は3割以上となっています。
【相続財産の金額】
○全体:4,195億円(100%)
○土地:1,145億円(27.3%)
○建物:228億円(5.4%)
=土地建物の合計:1,373億円(32.7%)
出典:国税庁「令和元年分の相続税の申告状況について」
相続財産の多くを不動産が占めており、相続対策には不動産対策が必須となります。
不動産対策には生前対策(相続発生前の対策)と相続発生後の対策があります。
生前対策は「不動産をどう上手に分ける準備をしておくか」「どう節税に活かすか」「どのように活用して納税資金を捻出するか」といったことが大切になります。
相続発生後の対策は「不動産をいくらで評価するか」「どう分けるか」「どう売却し、どう有効活用するか」といった点が挙げられます。
これらの対策を実行するためには、土地の有効活用や売却、不動産の分割や納税などがありますが、いずれの方法も不動産に関する知識や経験、ノウハウが必要になります。
◆大家の高齢化により問題が複雑化
ご存じの通り日本では高齢化が進んでおり、総人口1億2570万人のうち、65歳以上の高齢者人口は3640万人で、高齢化率は29.1%となっています。(2021年9月現在、総務省統計局による人口推計)
今後高齢化はさらに進み、高齢化率は2036年には33.3%、つまり3人に1人が高齢者になると見込まれています。
長生きの社会になることは喜ばしいことではありますが、相続の観点から見ると、相続人の数が増加することや、相続人に判断能力を欠く人も含まれる可能性が高まることから、問題が複雑になり、解決への困難さを増していることを意味します。
◆税制改正により相続税課税対象者が大幅に増加
不動産所有者にとって相続で気になる税金の問題。
相続税には基礎控除というのがあります。
基礎控除とは、一定額までは税金を課税しないものとし、これを超える場合には基礎控除を除いた部分に対して税金が課税されるという仕組みです。
相続税については2015年度の税制改正によって基礎控除額が引き下げられました。
改正前の基礎控除額は5000万円+(1000万円×法定相続人)でしたが、改正後は3000万円+(600万円×法定相続人)となり、基礎控除額が4割縮小しました。
この改正により相続税の課税対象者が大幅に増加しています。
◆遺産分割トラブルの増加
相続人が複数いる場合には、相続人の考え方が違っていたり、当人同士は仲良くても他の家族からの意見を受けたりすることもあり、遺産分割のトラブルは年々深刻になってきています。
また遺産分割トラブルは、いわゆる”普通の家庭”でも起きる可能性は高く、事件事例の約8割が5千万円以下の相続財産というデータもあります。
最高裁の司法統計によると、2018年の遺産分割の調停については約1万3千件と、この10年間で3千件近く増えています。
◆不動産は分けることが難しい
上記でも述べました通り、相続財産の中で不動産は大きな割合を占めます。
しかし、不動産には物理的に分けづらいという特徴があります。
建物は分けることは出来ないですし、土地の場合も分割可能な更地になっていることは稀で、多くの場合は分けてしまうと道路に面していない土地ができたり、形が悪くて有効利用できない土地になってしまいます。
相続人の共有としておくことも可能ですが、不動産を共有状態にしておくと、抵当権の設定や売却も個人の判断では出来なくなり、かえって将来の権利関係を複雑にしてしまう可能性があります。
多くの人が「遺産分割は均等に分ければ問題ない」と考えていますが、不動産の特性上、それが難しくなります。
◆相続税は現金で納付しないといけない
相続が発生し基礎控除額以上の相続財産が残っている場合、相続税を負担しなければいけません。
この相続税の納付方法は、基本的に現金で支払う必要があります。
厳密には物納も認められますが、要件が厳しく簡単には認められない状況となっています。
これまでの相続の現状を踏まえ、ここからは具体的な相続対策を解説します。
相続対策は大きく分けると「遺産分割のための対策(=分割対策)」「相続税の軽減と支払い資金の捻出のための対策(=税金対策)」「老後の生活安定と子世代の資産承継対策(=老後の生活対策)」があります。
一つずつ見ていきましょう。
◆遺産分割のための対策(=分割対策)
もし相続が発生した場合、相続人は近くにいるご家族になることから、「うちの家族は問題ない」「我が家には争うような財産もないから心配していない」と考える方も多いです。
しかし、いざ遺産を分割しようとすると、相続人の考え方の違いが浮き彫りになり、問題が表面化してきます。
また相続財産の多くが不動産であることから、分けることが難しく、事態を悪化させることになります。
遺産分割トラブルを防ぐ対策は2つあります。
一つ目の対策は、遺言を残すことです。
遺言は相続発生と同時にその効力を発生し、協議をするまでもなく、当然に遺言に従って遺産が分割されます。
ただし遺言によって相続させたくない相続人の相続分をゼロとすることは、遺留分(=被相続人の兄弟姉妹を除く相続人に民法で認められた最低限度の相続分)が発生するので、その点は注意が必要です。
被相続人とそれぞれの相続人の関係性であったり、家族構成などを考慮して上手く分配していく必要がありますが、円満相続にするポイントは、いかに残された家族が納得できるかという”公平性”を意識することです。
被相続人の意思である遺言を残しておけば、相続人はそれに従わざるを得ないので、遺産分割のトラブルを極力減らすことができます。
二つ目の対策は、できるだけ分けやすい資産としておくことです。
遺産を現金などの分割が簡単にできるようにしておけば、遺産を処分したり、形を変えたりしなくてもよくなります。
ただし現金で所有しているよりも不動産に換えた方が相続税評価額を抑えることができ、税金対策としては効果が高いので、不動産を保有し続けるか・売却するか・建て替えるか・新たに購入するかは、バランスを考えながら総合的に判断することが大切です。
ちなみに・・・遺言を書くと言うと「縁起でもないことを」と考える方もいますが遺書と遺言は違います。遺書(いしょ)とは自分の死後に残された家族達に想いを綴る手紙のことです。一方、遺言(ゆいごん)とは自分の死後に相続分の指定や相続人の廃除、遺贈などを記した生前対策として有効な法律文書です。
◆相続税の軽減と支払い資金の捻出のための対策(=税金対策)
上記で述べた相続税の基礎控除の引き下げにより、今までは相続税が関係ないと思っていた人たちにも相続税がかかる時代となりました。
相続税の支払いは現金一括払いが原則で、納付期限は相続発生から10ヶ月以内とされています。
しかし、もし遺産分割の協議がまとまらないと、預貯金を下すことができず、また小規模宅地等の評価減(=自宅等の土地の評価額を最大8割引きにできる特例)や配偶者の税額軽減(=配偶者が相続した遺産のうち課税対象額が1億6千万円or法定相続分までであれば配偶者に相続税が課税されない特例)といった、相続税負担が軽減される特例が使えなくなってしまいます。
そのため相続対策として生前から納税資金の準備をしておくこと、遺産分割協議がスムーズに進むよう準備しておくことが重要です。
また一次相続で配偶者がたくさん相続すれば、確かにその時の相続税は少なくなりますが、二次相続(=配偶者も亡くなった時)の相続税が割高になり、トータルでの相続税が高くなってしまう可能性がありますので、分割対策は二次相続まで意識して行うことが重要です。
なお、その他の具体的な相続税対策としては、生前贈与や生命保険の活用、法人設立などの方法があります。
◆老後の生活安定と子世代の資産承継対策(=老後の生活対策)
相続対策は「分割対策」「税金対策」のみでなく、安心して長生きできる環境を作る「老後の生活」についても対策しておくことが重要です。
今後必要となる老後の生活費用や医療費、介護費用などを考慮しておき、子世代が揉めることなく財産形成や資産承継ができる環境を作っておきましょう。
また、多くの人にとって高齢になってくると心配になるのが認知症。
2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推定されています。
もし大家さんが認知症になってしまうと、資産の売却や活用が法的に難しくなるだけでなく、日々の賃貸経営にも影響が出てしまいます。
大家さんの認知症対策としては、近年注目されているのが家族信託です。
「信託」とは、読んで字のごとく「信じて託す(たくす)」という意味です。
家族信託は、不動産や預貯金などの財産を信頼できる家族に託し、管理や処分を任せる財産管理の方法です。
いざという時の資産凍結を防ぎ、子が親のために財産を管理・処分し、スムーズな相続までつなげることが可能です。
認知症になってしまってからでは遅いので、意思能力がある元気なうちに対策を行っておくことが重要です。
また賃貸経営はあくまで事業なので、どうやったら良い賃貸経営が出来るかといった知識や情報も次世代の子どもたちに承継することが大切です。
賃貸経営をしている大家さんにとって喫緊の課題となる相続。
最適な相続方法は一人ひとり異なります。
まずはご自身の家族構成や保有財産の状況を整理し、家族や財産に対する思い・予想される相続税等を確認する必要があります。
城北商事不動産部では、相続に強い他の資格者(弁護士・税理士・司法書士等)と連携しながら、適切なプランニングと実行支援を行っております。
お一人、ご夫婦、ご家族いずれの形でのご来店も大歓迎です。
「相続税はいくらかかるの?」「相続対策について考えてみたい」「親が高齢になってきて心配」「不動産の承継について家族で話し合う機会を作りたい」「そもそも自分に相続対策は必要なの?」といったお悩みや疑問がございましたら、お気軽にご相談ください。
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