明治から昭和にかけて活躍した朝倉文夫。
彼は彫刻家として活動し、生涯で400点以上もの作品を生み出し、そのリアリティに徹した作風から「東洋のロダン」とも呼ばれました。
日本を代表する彫刻家が自らの美意識とこだわりを詰めて設計し完成させたのが「朝倉彫塑館」です。
展示されている作品はもちろんのこと、建物自体も見どころとなっています。
◆朝倉彫塑館とは
朝倉彫塑館屋上庭園の像
朝倉文夫(あさくらふみお)は明治から昭和初期に活躍した彫刻家・彫塑家です。
当時フランスの彫刻家と並び称される程で、代表作かつ最高傑作と評される「墓守」など400点以上の作品を世に残しました。
そんな朝倉文夫のアトリエ兼住まいを一般公開している美術館が、東京都台東区谷中にある「朝倉彫塑(ちょうそ)館」です。
彫塑とは、素材から切り出す彫刻とは異なり、粘土や石膏などを使って肉付けしていくことで作品を作り出す造形技術のことです。
朝倉文夫は粘土で形を作った後石膏で型取りして原形を作り、その原形を基にブロンズなどを流し込んで作品を作っていました。
この彫塑という技法によって数多くの作品を生み出しました。
朝倉は元来観念的なモチーフを選んでいましたが、27歳のとき、代表作である「墓守」(1910年)の制作をきっかけに「自然主義的写実表現」へと以降。
「東洋のロダン」と評されるほどに徹底したリアリティを作品に吹き込み始めます。
「墓守」は、谷中の天王寺墓地で働く老人の姿が象られています。
自然な立ち姿、人生が刻み込まれたかのような表情のシワ、そして朝倉家の人達が指す将棋の様子を見て浮かべるごく自然な笑顔。
文部省美術展覧会で最高賞を受賞したこの作品は、自然を自然の通りに写した朝倉の理想をよく表しています。
朝倉文夫は熱心な愛猫家であったことでも知られています。
多いときで19匹もの猫を自宅で飼っていた朝倉は、当然のように猫をモチーフとした作品も多く作っており、その数なんと58点。
晩年の朝倉は1964年の東京オリンピックと自身の活動60年を記念した「猫百態展」を企画していましたが、残念ながら病を得てオリンピックを待たず、企画も開催することなく亡くなってしまいます。
彼が生涯愛した猫たちの姿は朝倉彫塑館でももちろん見ることができ、かつて蘭の温室として使われていた「蘭の間」で今も気ままな姿を晒しています。
◆建物自体も見どころの一つ
朝倉彫塑館は、コンクリート造りのアトリエ棟と木造の住居棟に分かれています。
アトリエ棟は真っ黒な外観の重々しさに最初は驚いてしまうものの、中に入ると自然光の差し込む開放的な空間となっています。
天井が高く、その高さは8.5メートル。
朝倉は大型の作品を作成することも多く、アトリエ内には電動式昇降機も設置されています。
通常大型作品を作る際は作品周りに足場を組むのですが、朝倉は年を重ねたことで体力的にその方法が難しいと考え、自分ではなく作品の方を上下移動させるために昇降機を取り付けました。
住居棟は、パブリックなアトリエ棟とは違い家族が暮らすプライベートな空間。
コンクリートで作られたアトリエ棟とは異なりこちらは数奇屋造りとなっています。
アトリエに隣接する書斎は、2階の高さまで吹き抜けになっており、膨大な蔵書を収めるためのガラス扉の書架が造り付けられています。
その迫力はまるで映画のよう。
しかしそんな書架にも曲面が作られており、固く四角張った印象ではない柔らかな印象のある書斎になっています。
その奥には応接室と呼ばれる、半円状の出窓とソファが特徴的な空間があります。
骨格標本が飾られたかなり独特の印象の部屋になっています。
朝倉は「彫刻家としての自分の師は自然だ」と考えており、生活の中でも自然との接点を持てるよう、工夫を凝らしました。
その結果、朝倉彫塑館の中庭は、アトリエ棟と住居棟にぐるりと囲まれるような形になっており、どの部屋にいても中庭を眺めることができるようになっています。
そしてその中庭はほとんどが水で作られています。朝倉の郷土である大分は水が豊かな所で、その自然を再現したとも言われています。
また、オリーブの樹が根を張る屋上庭園もあります。
朝倉は自らのアトリエで弟子の育成に力を入れていましたが、当時は屋上菜園でその世話は弟子達が行っていました。
園芸を通じて自然に触れ、感性を磨かせるという狙いがあったのです。
◆広がるアートの街
朝倉彫塑館がある谷中エリアは、他にも多くのアートスポットが存在します。
木造アパートや銭湯を改造したカフェやギャラリーは、現代アートの魅力の発信地となっています。
竹久夢二の作品が展示された「竹久夢二美術館」や、江戸時代の機械時計が展示された「大名時計博物館」があるのもこのエリア。
築地塀の風情あるお寺の建物や、観光地として有名な谷中銀座商店街にある「夕焼けだんだん」の景色などは日本にいる人なら誰もが落ち着ける場所です。
ちょっとした休日にアート巡りを楽しめる環境が整っています。
◆彫刻と自然の美しさに触れる
JR日暮里駅から徒歩5分の場所にある「朝倉彫塑館」は、明治から昭和にかけて活動した彫刻家・彫塑家朝倉文夫のアトリエと住まいを一般公開している美術館です。
リアリティあふれる美術作品はもちろん、建物や庭も一つの作品として目を楽しませてくれます。
このエリアには他にもアートに触れることができる施設があり、休日を楽しませてくれます。
【施設情報】
施設名:台東区立朝倉彫塑館
所在:東京都台東区谷中7丁目18-10
アクセス:JR「日暮里」駅北改札口を出て西口から徒歩5分
電話番号:03-3821-4549
開館時間:午前9時30分~午後4時30分 (入館は午後4時まで)
休館日:月・木曜日(祝休日と重なる場合は翌平日)、年末年始
1940年創業、台東区・荒川区で地域密着