マンションは時間が経つにつれて劣化していくため、計画的な修繕が必要となります。修繕のなかでも、主要構造部や共用部を対象とした大がかりな工事を「大規模修繕」といいます。
本記事では賃貸マンション経営を検討されている方に向けて、大規模修繕の費用や時期、トラブル対策について解説します。賃貸マンションではオーナーが修繕義務を負う必要があるため、ぜひ本記事を読んで大規模修繕の知識を深めてください。
①大規模修繕とは?|国土交通省のガイドラインにおける定義
大規模修繕とはマンションの経年劣化にあわせて実施するまとまった修繕工事を指します。
国土交通省のガイドラインでは、「マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するために行う修繕工事や、必要に応じて建物および設備の性能向上を図るために行う改修工事のうち、工事内容が大規模、工事費が高額、工事期間が長期間にわたるもの」と定義されています。
大規模修繕は元の状態に戻す修繕工事と元の状態よりもグレードアップさせる改修工事を同時に行うケースが多いです。
時代のニーズに対応するためには修繕工事だけでは足りず、改修工事も組み合わせる必要があります。
◆大規模修繕が必要な理由
大規模修繕は建物の安全性や住宅性能を保つために必要な修繕工事です。大規模修繕ではマンションの主要構造部を中心に修繕工事を施します。適切なタイミングで行わなければ建物の強度が落ちるため、入居者が安全に生活できる住宅ではなくなってしまいます。
また、マンションの資産価値を維持・向上させるためにも大規模修繕は必要です。共用部の改修工事を怠っているマンションは、「管理が行き届いていない」「快適な生活ができない」という印象を抱かれやすく、入居者が集まりにくくなります。
◆賃貸マンションの修繕は法律上の義務
賃貸マンション・アパートのオーナーが建物に必要な修繕を行うのは法律上の義務です。民法606条では、「賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負う」と定められています。
各居室の修繕費用は敷金から賄える部分もありますが、共用部についてはオーナーの負担で大規模修繕を実施しなければなりません。区分所有者から毎月一定額の修繕積立金を集めて大規模修繕を行う分譲マンションとは仕組みが異なります。
◆大規模修繕の工事内容と確認申請の要否
大規模修繕の主な工事内容は、以下の通りです。
下地補修工事:躯体コンクリートで劣化している部分の補修
外壁補修工事:外壁の塗装・タイルの補修や防水処理
鉄部等塗装工事:外部階段や手すりなどの鉄部のサビ除去
屋上防水工事:屋上や屋根からの雨漏りを防ぐための防水処理
給排水管工事:給排水管の交換や更生
大規模修繕の内容によっては確認申請が必要となります。主要構造部(壁、柱、床、梁、屋根、階段)の1種類以上を過半数にわたり修繕する場合は、確認申請を行わなければなりません。
大規模修繕の工事費用相場はマンションの規模や築年数などによって異なります。正確な工事費用の把握は見積もりをとらなければ難しいでしょう。
とはいえ、国土交通省が「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」で工事費用の実態を公開しているため、おおよその目安にはなります。以下では資金調達方法とあわせて紹介します。
◆大規模修繕の工事費用相場
一戸あたりの大規模修繕工事費用は100万円前後が目安になると考えておきましょう。また工事費用を延床面積で割った平米単価は、1万円前後が目安です。
「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、一戸あたりの工事費用は75万円~100万円が30.6%で最も多く、次いで100万円~125万円が24.7%という結果でした。一方で平米単価については、1万円~1.5万円が41.1%で、次に5,000円~1万円が31.8%となっています。
◆工事資金の調達方法
費用不足が原因で大規模修繕を先送りにするケースも少なくありません。工事資金の調達方法は修繕積立金や借り入れといった選択肢があります。
修繕積立金は定期預金や保険商品を利用して、毎月一定額を貯めていく方法です。さらに今後は「賃貸住宅の大規模修繕積立金共済制度」という新しい制度の運用を予定しているため、修繕積立金を共済掛金として経費計上できるようになります。
こうした制度を活用しつつ、家賃収入で経済的な余力を考え、計画的な資金計画を組み立てましょう。
マンションはさまざまな建材を使って建てられているため、建材の保証期間などにあわせて定期的に大規模修繕を実施する必要があります。実施時期については法律上の規定はなく、オーナーの判断に委ねられているのが実情です。
ただし、おおよその周期やスケジュールの目安はあります。大規模修繕の実施時期や工事期間について解説します。
◆大規模修繕の周期
大規模修繕の実施周期は12年が目安とされるケースが多いです。12年という数字は国土交通省による「長期修繕計画作成ガイドライン」が根拠になっていますが、必ずしも12年周期にする必要はありません。
使われている建材の保証期間によっても異なりますが、実際は13~16年の周期で実施しているマンションも多いです。最近では耐久性の高い建材が開発されているため、18年周期で大規模修繕を行うマンションもあります。
建物の劣化具合は構造や立地、管理状態によって大きく左右されますので、何年周期とこだわらず、適切な時期に大規模修繕を行うことが重要です。
また、建物の状態を良好に保つためには、日常的に建物各部の不具合や設備等の作動異常などの状態を把握し、適切に消耗品の交換、作動調整、補修などを行なっておくことが必要です。
◆大規模修繕のスケジュール
工事前の準備期間には、まず建築会社や管理会社に建物劣化診断を依頼して現状を報告してもらいます。診断結果を踏まえて大規模修繕の内容や見積もり提案を受けて、見積もり精査の後に工事請負契約を締結する流れです。
着工前には必ず入居者に工事の実施時期や工事期間、工事内容を周知しておきます。工事期間は50戸以下の小規模マンションは3~4ヶ月程度、50戸以上の大規模マンションは4ヶ月以上かかるケースが多いです。
マンションの大規模修繕は入居者が生活している状態で工事を進めるため、トラブルが発生する恐れがあります。トラブルの多くは、入居者への情報提供不足が原因です。
入居者の不満が噴出してから対処するのでは解決までに時間がかかります。賃貸マンションの大規模修繕で発生しやすいトラブル事例と対策について解説します。
◆重要事項説明での告知義務はあるの?
宅建業法では重要事項説明を行わなければならない項目が定められていますが、その中に大規模修繕は含まれていません。
しかし、オーナーは契約の意思決定に関わる重要な情報を入居者へ説明する義務があります。
大規模修繕は入居者の生活に影響をおよぼす情報であるため、予定が決まっている場合は事前に説明しておいた方が良いでしょう。
◆工事中のクレームはどうやって防ぐ?
工事中のクレームを防ぐためには、入居者への配慮や丁寧な説明が必要です。
大規模修繕では騒音・臭気で窓を開けられなかったり、ベランダに洗濯物を干せなかったりする工程もあるため、入居者がストレスを感じる可能性があります。
クレームが工事期間に影響をおよぼす場合もあり、工事が長引くとまた別のクレームにつながり悪循環となる恐れがあります。
騒音や臭気などが発生する工程などの情報は把握しておき、エントランスに工事掲示板を設置してもらうなど、トラブルが起きる前に情報を共有しておきましょう。
大規模修繕は建物を維持していくために必要な工事ではありますが、入居者にはある程度我慢してもらう必要があるため、日頃から良好な関係を築いておくことも重要と言えるでしょう。
大規模修繕はマンションの安全性確保や資産価値維持のために必要な工事です。適切な大規模修繕によって住宅性能を維持できれば入居率や家賃水準も安定するため、次の修繕を行う際の資金も確保できるという好循環が生まれます。
大規模修繕を円滑に進めていくためには、早めに入居者へ通知して理解を求めることが大切です。
城北商事不動産部では賃貸物件のオーナー様を対象に建物の無料診断も受け付けております。「大規模修繕を検討しているものの、具体的な進め方がわからない」など、お困りごとがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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